東京高等裁判所 平成10年(ネ)3525号 判決 1999年6月01日
控訴人(被告) オリックス・クレジット株式会社
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 木村裕
同 山宮慎一郎
同 小池和正
同 林彰久
同 池袋恒明
同 池田友子
被控訴人(原告) X
右訴訟代理人弁護士 米川長平
同 渕上玲子
同 加藤俊子
同 松江頼篤
同 津田和彦
同 松江仁美
同 塚田裕二
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の本件請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、未開場のゴルフ会員権を、クレジット会社である控訴人との間で締結した割賦購入あっせんクレジット契約を利用して取得した被控訴人が、同クレジット契約に関して債務弁済公正証書を作成したが、ゴルフ場会社が事実上倒産し、その後同社に対して会社更生手続開始決定がされたことから、ゴルフ場の建設、開場が遅延しているため、それが右クレジット契約において支払停止事由を定めた特約条項(以下「本件特約」という。)に該当すると主張して、控訴人に対する公正証書による強制執行の不許を求めている事案である。
二 争いのない事実等
1 被控訴人は、平成二年一月三〇日ころ、株式会社真里谷(以下「真里谷」という。)との間において、平成四年中開場予定の「ゴルフ&カントリークラブ グランマリヤ」(以下「本件ゴルフ場」という。)への入会契約(以下「本件ゴルフ会員権契約」という。)を締結し、入会金四〇〇万円、会員資格保証金(預託金)一九〇〇万円、消費税一二万円の合計二三一二万円(以下「本件入会保証金」という。)につき、自己資金とその一部について控訴人からクレジット契約に基づく立替払を受ける方法で、その支払いを了して、本件ゴルフ会員権を取得した(乙二、七、九、弁論の全趣旨)。
2 被控訴人は、平成二年一月三〇日、控訴人との間において、右立替払の委託を目的として、次の内容のゴルフ会員権クレジット(割賦購入あっせん)契約(以下「本件クレジット契約」という。)を締結した(乙一)。
(一)金額 一三〇〇万円
(二)分割払手数料 五七五万九〇〇〇円
(三)弁済方法 平成二年三月から毎月一〇日限り一二〇回払(第一回目一〇万九〇〇〇円、第二回から第一二〇回まで各一〇万二〇〇〇円宛て)ボーナス月(六月及び一二月)各三二万五〇〇〇円宛二〇回
(四)本件特約 購入者(被控訴人)は、左記の事由が存するときは、その事由が解消されるまでの間、当該事由の存する商品について支払を停止することができる。
記
①商品の引渡しがなされないこと(以下「本件特約一項」という。)
②商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があること(以下「本件特約二項」という。)
③その他商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること(以下「本件特約三項」という。)
3 真里谷は、平成二年三月、本件ゴルフ場の造成工事を開始したが、平成四年三月、同工事は、資金不足のためいわゆる荒造成の段階で右工事は停止された(乙九)。
4(一) 真里谷の経営するゴルフクラブの会員の一部の者によって、平成五年三月に、次いで控訴人によって同年八月に、真里谷に対する会社更生手続開始申立が東京地方裁判所に対してなされた(乙九)。
(二) 東京地方裁判所は、平成六年八月五日、会社更生法に基づく保全管理命令を発令したうえ、平成六年一二月二日五時三〇分、真里谷に対する会社更生開始の決定をした(乙九)。
5(一) 被控訴人は、本件クレジット契約上の債務の弁済をしてきたが、平成八年七月三〇日付けで、控訴人との間で本件クレジット契約上の債務弁済方法に関して左記内容の支払条件変更契約(以下「本件変更契約」という。)を東京法務局所属公証人B作成の平成八年第一四三三号債務弁済公正証書(以下「本件公正証書」という。)をもって締結した(甲一)。
記
①被控訴人は、本件クレジット契約に基づく一三一四万三四二一円の債務を負担していることを承認する。
②被控訴人は控訴人に対し、右残債務に分割手数料四九万三三四四円を加算した一三六三万六七六五円を、平成八年九月から平成九年八月まで一二回に分割して、毎月一〇日限り七万円宛(ただし、最終回分は一二八六万六七六五円とする。)支払う。
③被控訴人が、右分割払を遅滞し、控訴人から二〇日以上の期間を定めた支払の催告を受けたにもかかわらず、その期間内にその支払をしなかったときは、当然期限の利益を失い、年六パーセントの遅延損害金を付加して支払う。
④被控訴人は、本件変更契約による金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する。
(二) 被控訴人は、本件変更契約にしたがって平成九年七月ころまでに割賦金合計七七万円を支払った。現在、本件変更契約上の残元本債務は、一二八六万六七六五円である(当事者間に争いがない。)。
第三争点
本件の争点は、被控訴人が本件特約一ないし三項に基づき、控訴人に対して本件公正証書による本件変更契約上の金銭債務につき、支払拒絶の抗弁権を有するか否かである。
一 被控訴人の主張
1(一) 本件クレジット契約は、ゴルフ場未完成の状態で締結されたゴルフクラブ入会契約の対価(いわゆるゴルフ会員権の購入)の立替え支払のための割賦購入あっせん契約であるから、本件特約一項の商品とは、真里谷が被控訴人に対してゴルフ場を完成して利用させるという役務の提供である。
(二) 本件ゴルフ場は未完成であり、完成の目処も立っていないから、それは、本件特約一項の商品の引渡しがなされていないことに該当する。
2 商品の瑕疵は原始的瑕疵に限る理由はないと解されるところ、本件ゴルフ場が利用できない状態にあることは、本件特約二項の商品の瑕疵に当たる。
3 本件特約三項の販売会社に対して生じている事由には販売会社の債務不履行を含むものであり、本件においては、ゴルフ会員権の販売行為に相当する本件ゴルフクラブ入会契約を締結した真里谷には、現在においても本件ゴルフ場の開場の具体的見込みが立っていないので、本件ゴルフ場を完成させるという債務の不履行がある。真里谷については、会社更生手続が開始されているため、被控訴人は、右の債務不履行を理由としてゴルフクラブ入会契約を解除することができないが、本件ゴルフ場の開場遅延は、本件ゴルフ会員権契約における真里谷の債務の重大な不履行であるから、被控訴人は真里谷に対して、それと対価的関係にたつ自己の反対給付の履行につき、いわゆる不安の抗弁権(双務契約において先履行義務を負う者が相手方の反対給付を受けられない虞があるときに、そのことを理由に相手方が義務を履行するか担保を提供するまで自己の債務の履行を拒絶しうるという権利)を有する。
また、本件クレジット契約及び本件変更契約において、本件ゴルフ場の開場予定日以降に履行期の到来する割賦金については、その支払は本件ゴルフ場の開場と同時履行の関係にたつものと解すべきであるので、被控訴人は、同時履行の抗弁権を有する。
よって、本件特約三項によって、被控訴人は控訴人に対して右各抗弁権を主張する。
4 控訴人は、その親会社オリックス株式会社及びそのグループ会社が真里谷が多額の融資をしてゴルフ場経営等の共同事業をしていることを承知しており、真里谷の資力、ゴルフ場完成の見込みなどを十分に検討して割賦購入あっせんの加盟店契約を締結し、親会社等の融資金の回収の一環として本件ゴルフ会員権購入者に対する与信をしてあっせんをしていたから、本件ゴルフクラブ入会契約について抗弁権の接続を受けてもやむを得ない。
二 控訴人の主張
1 本件クレジット契約にいう「商品」である本件ゴルフ会員権とは、被控訴人の真里谷との間のゴルフクラブ入会契約上の地位(会員権)であるから、ゴルフ場が未完成であっても、右クレジット契約にいう「商品」の引渡しとは、被控訴人が有効に会員権を取得したことをいうものと解される。本件では、被控訴人は法律上有効に会員たる地位を取得しているから、その後に現実にプレーをすることができる状態になっていなくても、それは、真里谷の被控訴人に対する入会契約上の債務不履行に過ぎず、本件特約一項の商品の引渡しがないことには該当しない。
2 本件特約二項の「商品の瑕疵」とは原始的瑕疵を意味し、後発的瑕疵を含まないものと解すべきである。したがって、瑕疵の有無は販売時(会員権取得時)を基準として判断されるところ、本件ゴルフ会員権契約は未だ完成、開場前の本件ゴルフ場の会員権を対象としたものであるから、会員権取得後に本件ゴルフ場会社の事情により開場が遅延したとしても、後発的なものであって、本件特約二項にいう商品の瑕疵には該当しない。
3 本件特約三項にいう事由は、商品の「販売について」生じた事由である旨規定されているが、本件ゴルフ場が当初の予定時期までに完成、開場しなかったことは販売後に真里谷の事情に起因して生じた事由であり、販売に際して生じたものではないから、本件特約三項の抗弁事由に該当しない。
また、本件ゴルフ場を開場させ、被控訴人に優先利用させることを求める権利は会員としての地位に基づくものであるところ、被控訴人は、本件ゴルフ会員権契約において本件入会保証金全額を真里谷に支払わなければ、本件ゴルフ会員権を取得できなかったのであり、その後の本件ゴルフ場の著しい開場遅延は、真里谷に対して本件入会保証金の支払を拒絶する抗弁事由とはならない。
4 割賦購入あっせん業者である控訴人は、本件ゴルフ会員の募集段階では、販売業者である真里谷と取引関係もあるので、そのゴルフ会員募集行為、ゴルフ会員権の販売について指導・監督することは不可能ではないが、それが完了した後は、真里谷の本件ゴルフ場の経営、ゴルフ場の開場・運営行為について指導・監督について責任を負える立場にないから、割賦購入あっせん業者として真里谷に対する抗弁権の接続を受けるべき実質的根拠がない。一方、本件ゴルフ場の未開場であることを承知の上で高額なゴルフ会員権を投機目的等で購入した者は、割賦購入あっせん業者が本件ゴルフ場の完成・開場について責任を持つことを通常期待していないから、ゴルフ場未開場を理由とする抗弁権の接続を期待していなかった者である。
第四当裁判所の判断
一1 本件特約にいう「商品」とは、いわゆる預託金制ゴルフ会員権である本件ゴルフ会員権であって、その本質は、本件ゴルフクラブ入会契約に基づくゴルフ会員たる契約上の地位である。そして、本件ゴルフ会員の契約上の地位は、本件ゴルフ場及びその付属施設の優先的利用権(メンバープレー権、真里谷から見れば役務、サービス提供債務である。)をその中核とし、これに会費の支払義務、預託金の返還請求権その他の権利義務によって構成されるゴルフ場会社との間の財産的価値を有する複合した契約上の地位である。また、本件クレジット契約における販売会社とは、本件ゴルフ会員権契約の一方当事者である真里谷であることは、前記本件クレジット契約の締結の目的及びその内容等から明らかである。
また、ゴルフ場会社と会員との間のゴルフ会員権契約とその入会保証金の融資ないし立替払を目的とする会員とクレジット会社間のクレジット契約は、ゴルフ場会社がクレジット会社との間の割賦購入あっせん加盟店契約において、クレジット会社に対して会員のクレジット契約上の債務につき包括的に連帯保証をすることなどを約定していて、右両契約が社会経済的には密接に関連しているものであっても、法的には原則として別個独立のものであるといわなければならない。
2 そして、本件ゴルフ会員権は、割賦販売法所定の指定商品に該当しないため、本件クレジット契約には割賦販売法の直接的な適用はない。しかし、本件クレジット契約における内容は、割賦販売法所定の「個品方式割賦購入あっせん契約」に広く利用されているクレジット業界の標準約款と全く同一趣旨の内容のものであるから、本件特約の解釈は、いわゆる抗弁権の接続を定めた割賦販売法三〇条の四の解釈に準じてするのが相当である。
したがって、被控訴人が、本件特約一ないし三項に基づいて、控訴人との間の本件クレジット契約における支払停止の抗弁として控訴人に主張できる抗弁とは、本件ゴルフ会員権契約において、被控訴人が真里谷に対して主張でき得た支払停止の効力をもつ抗弁、すなわち、同時履行の抗弁、あるいは契約の無効、取消又は解除による対価支払義務の消滅の抗弁でなければならない。
3 被控訴人は、「本件ゴルフ場は未完成であり、完成の目処も立っていないから、それは、本件特約一項の商品の引渡しがなされないことに該当する。」、又は、「本件ゴルフ場が利用できない状態にあるから、本件特約二項の商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があることに該当する。」と主張する。
しかしながら、本件ゴルフクラブ入会契約は、平成四年中に本件ゴルフ場の開場を予定した未開場のゴルフ場に対するゴルフ会員権契約であって、契約締結時点の平成二年二月においては、将来その開場がなされた場合に優先プレー権が現実化するものであり、それまでは本件ゴルフ会員権の内容たる優先プレー権を行使できず、真里谷に対して本件ゴルフ場の開場、ゴルフ場利用提供債務の期限の猶予を与えたものであることは自明であり、被控訴人は、本件ゴルフ場の開場、優先的利用債務の履行期が到来していない限り、本件ゴルフ場の未完成を理由に同時履行の抗弁権を真里谷に対して行使する余地はない。前記認定の事実によれば、真里谷は、これから造成工事を進める本件ゴルフ場について、平成四年の完成予定として宣伝して、会員を募集し、いわゆるゴルフ会員権の販売を行ったものであるが、このようにゴルフ場の開設・経営主体である会社が、ゴルフ場の完成時期を掲げてゴルフ会員を募集したときは、ゴルフ会員になろうとする者にとっては、ゴルフ場がいつから利用できるかは、プレー価値の享受の面でも、ゴルフ会員権の資産価値、投機価値の面でも重大な関心事であるから、本件ゴルフ会員権契約上、ゴルフ会員になった者に対して本件ゴルフ場を右開場予定期日もしくはゴルフ場の造成工事の進捗状況及び工事に関わる社会的、経済的事情状況に照らしてやむを得ない遅延として社会通念上許容される時期までに完成させて開場すべき債務を負っているというべきであり、遅くとも、被控訴人が本件変更契約に基づく控訴人に対する割賦金の支払を停止した平成九年八月ころまでには、右の開場すべき債務の履行期の到来していたものといわざるを得ない。しかしながら、真里谷に対する会社更生手続開始決定がなされているから、真里谷の右ゴルフ場利用役務提供債務の履行請求権も個別権利行使が禁止されて棚上げされているので、右の同時履行の抗弁権を行使できない。
また、真里谷が入会契約の当初より本件ゴルフ場を開場することが法律上又は社会関係上不可能であったとの特段の事由でもない限り、現時点で本件ゴルフ場完成の目処が立っていないことだけでもって、本件ゴルフクラブ入会契約に原始的瑕疵があったとはいえないし、右の特段の事由を認めるに足る証拠もないから、真里谷の債務の履行に原始的瑕疵があるとして、真里谷に対して同時履行抗弁権を行使する余地もないし、入会契約の解除等を主張することもできない。したがって、被控訴人の主張する事由は、本件特約一、二項所定の事由には該当しないから、控訴人に対する抗弁権の接続による支払停止の抗弁とすることはできない。
4 そこで次に、本件特約三項に基づく被控訴人の支払停止の抗弁について判断する。
(一) 前記のとおり、真里谷は、本件ゴルフ場の開設工事が当初予定より大幅に遅れ、平成四年内に開場することができないばかりか、被控訴人が本件変更契約に基づく控訴人に対する割賦金の支払を停止した平成九年八月ころに至っても未だ開場できていないから、遅くともそのころまでに本件ゴルフ場を開場して被控訴人の利用に供すべき債務につき、客観的事実としては履行遅滞状態に陥っているものであるといわざるを得ない。
(二) 本件特約三項の「その他商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること」とは、「販売契約が成立していない場合、無効、取消し得る場合」等の販売契約自体に意思表示の不存在ないし瑕疵等が存在する場合のほか、「販売業者に本件特約一項の場合(同時履行の抗弁権が行使できる場合)、本件特約二項の場合(瑕疵担保責任に基づく抗弁権として修補との同時履行の抗弁権又は契約解除による対価支払義務の消滅の抗弁)以外の事由に基づく債務不履行があることから、購入者が販売業者に対して契約解除による対価支払義務の消滅の抗弁を主張できる」場合のことをいうものと解すべきである。
被控訴人は、本件ゴルフ会員権の取得に際して、真里谷に対して本件入会保証金の支払を完了していることは前記のとおりであるので、被控訴人においては、本件債務不履行を理由に、真里谷に対して本件ゴルフ場の開場を催告のうえで債務の履行遅滞もしくは履行不能を理由として、本件ゴルフクラブ入会契約を解除し、その対価である本件入会保証金の支払義務の消滅を主張して、本件クレジット契約の割賦金の支払請求に対する支払停止の抗弁とすることができる余地があった。
しかしながら、被控訴人においては、本件ゴルフ会員権契約を債務不履行を理由に解除手続を未だとっていないことは被控訴人の自認するところである。
さらに、東京地方裁判所は、平成六年八月五日、真里谷に対して会社更生法に基づく保全管理命令を発令したうえ、平成六年一二月二日五時三〇分、会社更生開始の決定をしたことは前記のとおりである。したがって、右各決定による真里谷に対する原則的弁済禁止、その債権者に対する個別の権利行使禁止の効力から、ゴルフ会員等債権者は、真里谷に対して、右決定以後は、本件ゴルフ場の開場・利用に供すべきことを催告したり、それを前提に債務不履行責任を追求したり、本件ゴルフクラブ入会契約を解除する余地はなくなった。したがって、被控訴人は、前記割賦金の支払を停止した時点においても、現時点においても、本件ゴルフクラブ入会契約を真里谷の債務不履行を理由に解除することはできない。
したがって、被控訴人は、右解除による本件入会保証金支払義務の消滅の抗弁を本件特約三項によって接続して、控訴人の本件クレジット契約に基づく割賦金支払請求に対する支払停止の抗弁として主張する余地はないものといわなければならない(もとより、会社更生手続の廃止がなされたり、更生計画において本件ゴルフクラブ入会契約の解除を選択することが更生債権者に認められた場合には、被控訴人は、その解除権を行使して本件入会保証金の支払義務を消滅させることができ、そのときには控訴人に対して支払停止の抗弁の主張ができる。また、その場合、本件のように真里谷の会社更生手続開始決定等により、解除権の行使が制限されていることも考慮すると、事情によっては少なくとも債務不履行事由が発生した後に支払った本件クレジット契約の割賦金の返還を求めることも可能と解する余地がある。なお、控訴人は、本件ゴルフ会員権の購入のための本件クレジット契約において、本件ゴルフ場未開場を理由として支払停止の抗弁の接続を認めることは、取引の実態やゴルフ場不開設のリスクを割賦購入あっせん業者に負わせることになり相当でないと主張するが、本件クレジット契約はゴルフ会員権の販売のための立替払といっても、その実質はゴルフクラブ入会契約上の債務の立替払のためのローンであり、右ゴルフクラブ入会契約の本旨はゴルフ場の開場、優先利用権の授与とそれに基づく利用役務の継続的提供にあるから、その立替払もそれらの現実の授与、提供を目的としてなされるものというべきであり、本件クレジット契約において本件特約を定めた以上、契約の拘束を受けるのは致し方ないことであって、対象商品が未開設のゴルフ会員権だからといって特異な解釈をすることは認められない。)。
5 なお、被控訴人は、本件ゴルフ場の完成予定時期が到来した場合、右期日以降に期限が到来する本件入会保証金の割賦金の支払義務について同時履行の抗弁権が成立すると主張するが、真里谷に対する会社更生手続開始決定がなされて、本件ゴルフクラブ入会契約上の被控訴人の債権が更生債権として扱われ、個別の権利行使が禁止されて、いわゆる棚上げ状態になっている以上、真里谷に対し同時履行の抗弁を主張する余地がないので、控訴人に対してもその抗弁の接続はありえないから、右の主張は採用できない。
また、被控訴人が主張する不安の抗弁についても、真里谷の倒産によって本件ゴルフ場開設不可能の虞があっても、真里谷に対して会社更生手続開始決定がなされ、本件ゴルフ場開設の動向は同手続における更生計画で決められ、被控訴人の本件ゴルフクラブ入会契約上の債権も更生債権として更生計画においてその処遇が定まる運命にある以上、現時点において被控訴人が真里谷に対して不安の抗弁による支払拒絶の余地は残されていないから、控訴人に対しても不安の抗弁の接続はありえず、右主張も採用できない。
第五結論
以上によれば、被控訴人の本件請求は理由がないので棄却すべきである。
よって、本件控訴は理由があるので、右と結論を異にする原判決を取り消し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 廣田民生)